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トルクレンチとは?

トルクレンチとは「今行っている作業を、どれくらいの力で締付けているか」を測定する工具で、精密機器です。ボルトやねじを適正トルクで締め付けるために使用します。
すでに締め付けられているボルト・ナットが、どれくらいの力で締め付けられているかを確認する工具ではありません

締め付け力(トルク)の単位はN・m(ニュートンメートル)で表します。

トルクレンチにも様々な種類がありますが、締付けトルクの確認方法で分類すると「直読式」と「シグナル式」に分けられます。

直読式

直接目盛の数値を読み取りながら作業するトルクレンチ。設定トルクに対し、何N・m(ニュートンメートル)で締め付けたか数値で分かることが特長。

直読式トルクレンチの種類
プレート型トルクレンチ・ビーム型トルクレンチ
ビーム型トルクレンチ (プレート型トルクレンチ)

ある一定の力を加えた時に発生する金属の歪みをプレート上に刻まれた目盛で読み取ります。機構が単純な分、意外に正確で安価なものが多いのですが、力点位置を正確にするためにグリップがカタカタ動くタイプが一般的なので、使い方には少し慣れとコツがいります。また、プレートを真上から読まないと数字がずれてしまうので、さまざまな角度で作業をすることには向いていません。

※KTCでは生産終了。

ダイヤル式トルクレンチ
ダイヤル式トルクレンチ

中央についたダイヤルの目盛でトルク値を判読します。このタイプは置き針がついていて、ピーク値のトルクを確認できることと、比較的正確なのが長所ですが、大きく重量があり、価格が高いといった短所があります。

シグナル式

設定トルク値を「超えた」ことを、音や振動などでお知らせするトルクレンチ。

シグナル式トルクレンチの種類
プレセット型トルクレンチ
プレセット型トルクレンチ

あらかじめ設定したトルクに達すると軽いショックが手に伝わったり、「カチッ」という音がして締付け完了が確認できます。同じトルクで何本もボルトを締め付けるような連続作業に適しています。

直読式&シグナル式

デジタルトルクレンチ
デジタルトルクレンチ

プレセット型やダイヤル型はスプリングやカムといった機械的な機構でトルクを測定するのに対し、デジタル型はレンチに掛かる力をセンサーで電気的な信号に変換して測定するもので、締付けトルクを数字で読み取ることが可能です

直読み式は、数値を読み取る位置や角度によって狂いが生じるという問題点がありました。またシグナル式も、設定トルク値を「超えた」瞬時に力を緩めなければオーバートルクになってしまい、作業者によって締め付けトルクに差異が生じるという問題点がありました。デジタルトルクレンチは、数字が読み取れるダイヤル型と設定トルクを知らせてくれるプレセット型の機能を併せもったトルクレンチなのです。

ねじの基礎知識 ~ねじはなぜ締まるのか?~

「戻ろうとする力」

締めたボルトが簡単に緩まないのは、締め付けたことで伸びたボルトが元に戻ろうとする力が働くためです。

ボルトを締め付けると、ボルト本体には引っ張り方向の力がかかります。引っ張られて伸びたボルトは、バネのように元に戻ろうとして、締め付けているもの(部品等)を圧縮します。ボルトが締まっている(固定されている)状態とは、引っ張られて伸びようとする力と、戻ろうとして締め付けるものを圧縮する力のバランスが取れている状態です。

ねじが締まる仕組み図解

ゼムクリップを例に説明します。

ゼムクリップには内側と外側、2つの楕円形があり、紙をはさむときにはこれらの楕円を上下に広げます。するとクリップが元の位置に戻ろうとする力が働いて、紙をとめることが出来ます。

ねじが締まる仕組みをクリップに置き換えて図解

このように、ねじも引っ張っる力と戻ろうとする力によって締まっています。

ボルト締結のメカニズム

ねじの締めすぎによる問題

ねじは伸びる

目に見えないとても小さな変化量ですが、ねじは締結によって伸びたり縮んだりしています。そのため、ねじを締めすぎると伸びてしまい挟む力が弱くなります。ボルトの締め付けが弱いと、周りの振動や熱などの影響でこのバランスが崩れ、ねじは緩んでしまいます。逆に締め付けが強いと、締め付けられた物(部品等)やねじ自体の破損を招きます。

ねじをクリップに置き換え、ねじが伸びる実験を行います。

5枚 挟んだとき
はじめに紙を5枚挟んだときは、挟んだあとクリップを外しても、クリップは元の形に戻りました。これは一度開いたクリップが元の形に戻ろうとする力が働いたからです。
20枚 挟んだとき
20枚を挟んだときは、クリップの「戻ろうとする力」の範囲を超えて広げてしまったため、クリップが少し開いてしまい、挟む力が弱くなりました。
50枚 挟んだとき
50枚では、クリップは開いたまま完全に元に戻らなくなり、クリップの挟む力は無くなってしまいました。これが「鉄が伸びた」状態です。
50枚 挟んだあと、同じクリップで5枚を挟む
ねじの戻ることができる範囲を超えた力で締めると、ねじが伸びてしまい戻らなくなります。つまり、締めたはずのねじが知らない間に緩んだり、外れる原因となります。

「弾性域」(弾性変形範囲)と「塑性域」

締め付けられていたボルトを緩めると、引っ張られて伸びていたボルトは元の形に戻ります。しかし、締め付ける力を増やしていくと、ある時点からボルトは完全に元の形には戻らなくなります。この境界を「降伏点」といい、ボルトが完全に元に戻る範囲を「弾性域」(弾性変形範囲)、完全に元に戻らなくなる範囲を「塑性域」(塑性変形範囲)といいます。ボルトをさらに締め付けていくと、最終的にねじ切れてしまします。この点を「破断点」といいます。(下図参照)

ボルトが緩まないようにするには、なるべく大きな力で締め付けることが望ましいです。しかし、ボルトを塑性域まで締め付けてしまうと、破断点に近づくため危険です。また、塑性域まで締め付けてしまったボルトは変形して元の形に戻らないため、再利用はできません。従って、ボルトは弾性域の範囲内で使用する必要があります。(※)
※エンジンのヘッドボルトなど、塑性域で締め付ける特殊なボルトもあります。

ボルトの締めすぎによる問題

トルク管理はなぜ必要?

弾性域から降伏点を越え塑性域に入ると、トルク(締め付ける力)の増加に対し、ボルトが伸びる割合は大きくなります。しかし、人間の五感でこの変化を感じることは困難です。ある程度経験を積んだ作業者でも、トルク不足による緩みを防ぎたいという気持ちが無意識に働き、規定トルクを超えたトルクをかけがちです。また、最近では各産業分野において、鉄以外のさまざまな素材が使われています。アルミや樹脂などの部品は、鉄製のものに比べ柔らかいため、同じ感覚で締め付けると部品自体を破損させてしまう可能性が高くなります。

トルク不足によるボルト・ナットの緩みだけでなく、オーバートルクによるボルトや部品の破損は、重大な事故を発生させる原因となります。そのため、経験や勘だけに頼ったトルク管理でなく、トルクレンチを用いた正確なトルク管理が望ましいのです。

ねじが伸びてしまう

トルクとは?

トルクとは、Lの長さのレンチ(※)でFの力をかけた時にボルトに与えられる回転力Tの事です。

(ニュートン) × 長さ= トルク(ニュートンメートル)

T(トルク)=F(力)✕L(長さ)
※正確には、Lはボルトの回転軸から力をかける点までの距離(上図参照)ですが、ここでは説明を容易にするため、レンチの全長をLと表現しています。

例えば、100N(約10kgf)の力を1mの長さのレンチにかけた時のトルクは100N・m(約10kgf・m)となります。

100N(ニュートン) × 1m= 100N・m(ニュートンメートル)

長くなるほど大きな力がかけられる

トルクとは「F(力)✕L(長さ)」ですから、長さが長くなるほど大きなトルクがかけられる事になります。

100N(約10kgf)の力を2mの長さのレンチにかけた時のトルクは200N・m(約20kgf・m)となります。

100N(ニュートン) × 2m = 200N・m(ニュートンメートル)

長くなるほど軽い力で作業できる

ボルトを100N・m(約10kgf・m)で締め付けるとき、2mの長さのレンチを使えば50N(約5kgf)の力で作業ができます。

50N(ニュートン) × 2m = 100N・m(ニュートンメートル)

支点と力点の関係

柄が長いと同じ力で大きなものを持ち上げられる 柄が長いと小さな力で同じものを持ち上げられる

しかし、ボルトにはそれぞれ適正な締め付けトルクがあり、ボルトの種類や締め付ける場所・目的に応じて締め付けトルクが規定されています。レンチも基本的にはそのボルトに適正な締め付けトルクに耐えられる、又はそのトルクがかけられる長さに設定されているのです。

例えば乗用車のホイールナットの規定トルク値の多くは103N・mとなっており、ホイールナット用のトルクレンチは全長400mm程度あります。400mmのレンチで103N・mのトルクで締め付ける場合、必要とする力は257.5N(約26kgf)になります。

F×0.4m=103N・m
F=103÷0.4=257.5N(約26kgf)

この力は、一般的に大人が軽く体重をかけるくらい(腰を落とす程度)のもので、手でかけられる力の上限に近いものです。一方、全長が半分の200mmのレンチで103N・mのトルクをかけるには、倍の515N(約52kgf)の力が必要なので、腕力だけではほとんど不可能となります。従って、ホイールナットを締め付けるには全長400mm程度のレンチが必要になるということが分かります。

トルクの単位と計量法

トルクの単位は以前はkgf・m(キログラムメートル)が用いられていましたが、1993年に施行された「新計量法」によりSI単位(ISO国際規格)への移行が義務づけられ、現在では力の単位にはN(ニュートン)、トルクの単位にはN・m(ニュートンメートル)が使われています。1N・mは0.10197kgf・mで、逆に1kgf・mは9.8067N・mとなります。実際の作業においては1kgf・mは約10N・mと考えれば目安となるでしょう。

1kgf・m=9.8067N・m
1kgf・m≒10N・m
1N・m≒0.1kgf・m

計量法とは「計量の基準を定め、適正な計量の実施を確保」することで「経済の発展及び文化の向上に寄与する」ことを目的に制定された日本の法律で、昭和26年に制定された旧計量法に対し、1992年に全面改正された現行法は「新計量法」と呼ばれています。計量法では、計量単位を制定したり、取引や証明に使われる計量器の精度(正確さ)を維持するための様々な条項が定められています。新計量法により計量単位の国際単位系(SI)への全面移行が義務付けられた1999年以降、日本国内で販売されているトルクレンチの測定単位は国際単位系である「N・m」のみとなりました。計量法により測定単位が変わった身近な例としては、自動車のエンジン出力の単位が「PS」(馬力)から「kW」(キロワット)になったり、天気予報で耳にする気圧の単位が「mb」(ミリバール)から「hPa」(ヘクトパスカル)になった事などが挙げられます。