KYOTO TOOL CO., LTD.

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  1. トルク管理 安心と安全のために
  2. コラム
  3. トルクとは? ねじ締結の仕組みについて

トルクとは

トルクとは、Lの長さのレンチ※でFの力をかけた時にボルトに与えられる回転力Tの事です。

力学的に、物体に回転を生じさせる力の大きさを示す量のことを力のモーメントといいます。その力のモーメントの中でも、固定された回転軸の周りにはたらくモーメントをトルクと呼びます。「ねじりの強さ」などと表現されることもあります。

Basics

トルク | N・m(ニュートンメートル)という単位で表します。

力(ニュートン)×長さ=トルク(ニュートンメートル) ※正確には、Lはボルトの回転軸から力をかける点までの距離(上図参照)ですが、ここでは説明を容易にするため、レンチの全長をLと表現しています。

自動車の性能を表す“トルク”との違い

「トルク」という用語は、自動車のエンジン性能を表現する際にも用いられます。
例えば、自動車の性能を数値化して一覧にしているスペック表などに記載されているエンジンの最大トルクとは、エンジンをもっとも効率よく駆動させた際に発生するトルクの最大値です。この最大トルクが大きければ大きいほど、加速性能が力強いことを意味しています。

Basics

最大トルクの単位 |N・m/r.p.m(アールピーエム)です。
r.p.m |rotation per minute の略で、1分間あたりの回転数の意味です。

このように、トルクという単語が使われていたとしても単位が異なる物理量を表現している場合があります。

トルクの原理とは

Basics

トルクの計算式 |力(ニュートン) × 長さ = トルク(ニュートンメートル)

計算式の通りトルクは、力の大きさが同じ場合には回転軸から力をかける力点までの長さが長くなるほど、大きなトルクが発生します。一方で、回転軸に一定のトルクを発生させたい場合には回転軸から遠い位置に力をかけるほど、小さな力で必要なトルクを発生させることが可能です。

例えば、100N(ニュートン)の力を回転軸から1mの長さにかけたときのトルクは、100N・m(ニュートンメートル)となります。また、50Nの力を回転軸から2mの長さにかけたときのトルクも100N・mとなります。

Example

100N × 1m = 50N × 2m = 100N・m

このように力の大きさと長さは異なりますが、どちらの場合も同じトルクを発生させることができます。
これが工具の柄の長さと、かけられる力の関係です。

トルクによってねじは締まる
ねじ締結の仕組み

トルクとねじ締結の仕組みには大きな関係があります。ねじが締まる仕組みや、ねじがゆるむ理由などを交えてその関係を解説します。

ねじはなぜ締まるのか?

クリップの外側の円を赤、内側の縁を青に色分けして説明します。神を挟むときに引っ張られる→元に戻ろうとする力がはたらき、紙が挟まる

ねじ締結の仕組みは、締めつけたねじがひっぱられる力と元に戻ろうとする力によって成り立っています。
この「元に戻ろうとする力」は、書類などをはさむ際に用いるゼムクリップで説明できます。

ゼムクリップは内側と外側の2つの楕円形で構成されており、紙をはさむ際には楕円を上下に広げて使用します。
広げた内側と外側の楕円は、それぞれが元の位置に戻ろうとする力を作用させています。この元に戻ろうとする力が働いているために内側と外側の楕円の間に紙をはさむことができるのです。

これと同様に、対象物をボルトとナットで締結する場合も同じことが言えます。
下の図のように、ボルトとナットが対象物に接触するまでねじは自由に動くことができます。そこからさらにボルトを回すとねじが少し伸びるのですが、この時ひっぱられて伸びようとする力と、それに反発して伸びたねじが元に戻ろうとする力が発生します。この元に戻ろうとする力を「軸力」と呼びます。
ひっぱられて伸びようとする力と軸力の2つのバランスが取れている状態が、ねじを締結できている状態です。

ねじ締結のしくみ
Basis

軸力を含めて、ねじの締結には以下のような力が関係しています。

軸力(引張力) |締め付けによって引っ張られたねじが元に戻ろうとする力
締結力(圧縮力) |ボルトとナットにはさみ込まれ、締結された対象物を固定する力
外力 |締結された対象物を外そうとする力
ねじ締結のしくみ

外力の代表的な例は振動です。例えば機械を動かす際の振動、列車が走る際にレールに加わる振動、自動車を走行する際タイヤのボルトに加わる振動などです。また、ボルトを外す際にかける力も外力といえます。

これらの3つの力が軸力 = 締結力 > 外力の関係になっていれば、対象物を締結し続けることができます。

ねじのゆるみはなぜ起こる?

ねじは対象物を締結する軸力が減少したときにゆるみます。
ねじがゆるむ理由は、主に「回転ゆるみ」と「非回転ゆるみ」に分類できます。

回転ゆるみ

回転ゆるみは、締結されたボルトとナットがゆるむ側に戻り回転することによって生じるゆるみです。振動などの外力が繰り返しかかることで対象物に発生する相対的なすべりによって、回転ゆるみが発生します。

回転ゆるみにつながる外力は、主にボルト軸方向、ボルト軸直角方向、ボルト軸回り方向からの3種類です。これらの外力の一部、もしくは複数が繰り返しかかることで徐々に軸力が低下し、ねじが回転することでゆるみが生じてしまいます。

ねじ締結のしくみ

非回転ゆるみ

ボルトやナットが回転しなかった場合でもねじのゆるみは生じます。
ボルトの伸び量が小さくなったり、対象物の縮み量が小さくなったりすることでボルトの軸力が低下すると、軸力 = 締結力 > 外力の関係が崩れねじのゆるみにつながります。
非回転ゆるみには「初期ゆるみ」「陥没ゆるみ」「微動摩耗によるゆるみ」「高温ゆるみ」などがあり、すべてに対する万能な対策はありません。

Case.01
初期ゆるみ

ねじの締結に関わるボルトやナット、対象物には表面に粗さやうねりなどの微小な凹凸が存在します。
締結後に使用している中でこの微小な凹凸が徐々になくなり平坦に近づくと、締め付けの長さが減少し軸力が低下した結果ゆるみが発生します。
初期ゆるみは、微小な凹凸がなくなってしまえば進行しにくくなるため、しばらく使用した後に規定されたトルクに締め直すことで影響を抑えることが可能です。

Case.02
陥没ゆるみ
陥没ゆるみは、締め付け時に必要以上の力をかけることでボルトの座金部が対象物に陥没してしまうことで生じるゆるみです。特に、対象物の剛性が低い場合や締め過ぎ(オーバートルク)などで締結部に大きな軸力をかけてしまうことで発生します。
陥没ゆるみの影響を抑えるためには、使用する部品に強度や剛性が高い材料を使用するといいでしょう。また、必要以上の軸力がかからないように、締め付け時には規定トルクを守りましょう。
Case.03
微動摩耗によるゆるみ

締結時に規定されたトルクがかけられておらず締め付け不足となっている場合、外力の影響で微細振動が生じ、ボルトやナットと対象物の接触面が摩耗(微動摩耗)します。この微動摩耗が生じることで軸力が低下し、ゆるみにつながります。初期ゆるみと同じようにみえますが、初期ゆるみの要因となる微小な凹凸以上に摩耗することで微動摩耗によるゆるみが発生します。
微動摩耗によるゆるみを防ぐためには、規定されたトルクをしっかりとかけることに加えて、部品の材料選定や表面硬化処理によるボルトやナット、対象物の表面強度を強化することが効果的です。

Case.04
高温ゆるみ

金属や樹脂などの材料は、基本的に高温時には膨張し低温時には収縮します。温度変化によって材料の体積が変化し、締結部の軸力に影響が生じることで発生するのが高温ゆるみです。
高温もしくは低温で使用する場合や、使用時に大きな温度変化が生じる場合には、あらかじめ材料がもつ線膨張係数を考慮した設計を行う必要があります。線膨張係数とは温度の上昇によって物体の長さや体積が膨張する割合を温度当たりで示したもので、熱膨張係数とも呼ばれます。また、部品や設備を使用する際には設計時に想定されている温度範囲外では使用しないことが重要です。

ねじを締める適切な強さとは?

目に見えないとても小さな変化量ですが、ねじは締結によって伸びたり縮んだりしています。
この変化についてもゼムクリップで説明ができます。

Case.01

5枚 挟んだとき

紙を5枚挟んだときは、挟んだあとクリップを外しても、クリップは元の形に戻りました。これは一度開いたクリップが元の形に戻ろうとする力が働いたからです。

Case.02

20枚 挟んだとき

20枚を挟んだときは、クリップの「戻ろうとする力」の範囲を超えて広げてしまったため、クリップが少し開いてしまい、挟む力が弱くなりました。

Case.03

50枚 挟んだとき

50枚では、クリップは開いたまま完全に元に戻らなくなり、クリップの挟む力は無くなってしまいました。これが「鉄が伸びた」状態です。

紙を5枚挟んだときのクリップのように締め付けられていたねじを緩めると、引っ張られて伸びていたボルトは元の形に戻ります。しかし、紙を20枚挟んだときや50枚挟んだときのクリップのように締め付ける力を増やしていくと、ある時点からねじは完全に元の形には戻らなくなります。
このように強い力で締め過ぎるとねじが伸びて挟む力が弱まってしまい、場合によっては対象物やねじ自体が破損します。一方で締め付ける力が弱いと、周りの振動や熱などの影響で軸力=締結力>外力のバランスが崩れ、ねじはゆるんでしまいます。

以上のようにねじは伸びたり縮んだりしますが、締め付けによって変形したねじが完全に元に戻る範囲を「弾性域だんせいいき(弾性変形範囲)」、完全に元に戻らなくなる範囲を「塑性域そせいいき(塑性変形範囲)」、そして弾性域と塑性域の境界を「降伏点こうふくてん」といいます。
降伏点を超えてもさらにねじを締め付けていくと、最終的にねじは破損してしまいます。この点を「破断点」といいます。

POINT

ねじが緩まないようにするには、なるべく大きな力で締め付けることが望ましいです。しかし、ねじを塑性域まで締め付けてしまうと、破断点に近づくため危険です。また、塑性域まで締め付けてしまったねじは変形して元の形に戻らないため、再利用はできません。従って、ねじは弾性域の範囲内で使用する必要があります。

※エンジンのヘッドボルトなど、塑性域で締め付ける特殊なボルトもあります。

ねじを正しく締結するための3つの管理方法

対象物をねじで締結するということは、ねじ部を伸ばすことと同じです。そして、ねじを締める力が大きければ大きいほどねじが伸びる割合も大きくなります。ねじが伸びすぎてしまうと、使用中にねじの伸びが進行してゆるんだり破損したりする原因につながります。

そのため、ねじが弾性域の範囲で締め付けられているか確認する必要があるのですが、ねじの軸力を測定することは容易ではありません。そこで、ねじ締結を管理するために日本産業規格(JIS)※ではねじ締結の管理方法として、「トルク法」「回転角法」「トルクこう配法」の3種類を取り上げています。
※日本産業規格(JIS:Japanese Industrial Standardsの略)は、日本の産業製品に関する規格や測定法などが定められた日本の国家規格です。

KTCでは3つの管理方法のうち「トルク法」を採用しています。

トルク法

トルク法は、締結トルクと締結力が線形関係の領域を利用した締結力の管理方法です。
締結トルクだけを管理するため、トルク管理方法の中でも簡単に行うことができ、広く一般的に採用されています。一方で、軸力にばらつきが生じる点がデメリットです。
トルクと軸力の関係は次の関係式で表されます。

Basics

締付トルクと軸力の関係式 T = kdF

T:締付トルク[N・m] = k:トルク係数 × d:ねじの呼び径[m] × F:軸力[N]

この関係式で使われるトルク係数とは、実際に締め付けた際に与えるさまざまな要素を考慮した係数です。
具体的には、ねじの座面の粗さやねじのピッチなどが影響します。トルク係数は常に一定の値を取るわけではなく、一般的には0.15~0.2程度の間を変化するといわれています。

回転角法

回転角法は、ボルトが着座するまでの弾性締め付け領域では締結トルクで管理し、着座後の塑性締め付け領域ではボルトを回した角度でトルクを管理する方法です。
トルク法のデメリットである軸力のばらつきを抑えられる点がメリットですが、塑性領域での締結を行うためボルトの再利用には注意が必要です。

トルクこう配法

トルクこう配法は、トルク曲線のこう配を利用するトルク管理方法です。 回転角法と同様に軸力のばらつきが小さいことがメリットです。しかし、トルクこう配の算出に必要な降伏点を検知できる測定器が高額である点がデメリットといえます。

トルクの単位は

トルクの単位は、現在N・m(ニュートン・メートル)やcN・m(センチニュートン・メートル)が用いられています。

測定単位の歴史

現在使用されているN・mという単位は、国際単位系(SI)によって定義されているトルクの単位です。国際単位系(SI)とは18世紀のフランスで生まれたメートル法を起源とした単位系で、世界中で広く採用されています。
国際単位系(SI)で定義されている基本単位は、時間、長さ、質量、電流、熱力学温度、物質量、光度の量を定義する秒(s)、メートル(m)、キログラム(kg)、アンペア(A)、ケルビン(K)、モル(mol)、カンデラ(cd)の7つです。
また、7つの基本単位以外にも力を定義するニュートン(N)や圧力を定義するパスカル(Pa)など22の組立単位というものが定義されています。

国際単位系(SI)の7つの基本単位

物理量 時間 長さ 質量 電流 熱力学温度 物質量 光度
単位 秒(s) メートル(m) キログラム(kg) アンペア(A) ケルビン(K) モル(mol) カンデラ(cd)

トルクは力と長さをかけ合わせた物理量であるため、SI単位で表現する場合には、組立単位であるニュートン(N)と基本単位であるメートル(m)を組み合わせてN・mと表現します。
日本国内では、経済の発展および文化の向上に寄与することを目的に、計量法という法律が制定されました。1992年に全面改訂された現行の計量法は「新計量法」とよばれ、1999年以降には計量単位を国際単位系(SI)へ全面移行することが義務付けられました。
それ以降、日本国内で発売されるトルクレンチの測定単位など、トルクの単位は国際単位であるN・m、cN・mに統一されています。

新計量法施行以前に使用されていた単位

新計量法が施行される前までは、トルクの単位としてkgf・m(キログラムメートル)が用いられていました。しかし現在は国際単位系(SI)が採用されているため、公式な取引や証明にkgf・mという単位は使用できません。
一方で新計量法以前に製造・作成された計測機器や資料などでは、現在でもkgf・mという単位で表記されている場合があります。そういった場合はkgf・mの数値をN・mに換算して考えましょう。
1N・mは0.10197kgf・mで、1kgf・mは9.8067N・mです。1kgf・mを約10N・mと考えれば目安となるでしょう。ただし、この換算値は目安なため、求められる精度によっては厳密な換算が必要となります。

Basics

1kgf・m = 9.8067N・m ≒ 10N・m

規定トルク値とは

ねじの締結を行う際、多くの場合で規定トルク値というものが設けられています。
トルクをどのくらいの力で締めるかを定めるもので、それ以上の力で締めると締め過ぎ(オーバートルク)となってしまうため、締結作業を行うときは規定トルク値通りに締結を行う必要があります。

降伏締め付けトルク値

多くの工具メーカーではねじの呼び径(ねじ山がある部分の直径)に対する降伏締め付けトルクを参考値で規格化しています。
ボルトやナットを締結する際には、それぞれ適切なトルクが指定されています。
締結の際に指定された範囲内のトルクに管理して締結できていないと部品の破損や部品の脱落につながるため、設定されたトルク値で正しく作業が行われているかをチェックすることがとても重要です。

KTC 降伏締付けトルク値参考資料(サンプル)

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